きっと、人は誰にだって会いに行ける。花田菜々子さんインタビュー

『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』

蛍光イエローが目立つ表紙に、上記のタイトル。

本屋で平積みになっているこの本を見た瞬間「どういうこと? 」と手に取らずにはいられなかった。

著者は花田菜々子さん。「ヴィレッジヴァンガード」で12年働いたのち、いくつかの本屋で店長を勤め、現在は2018年3月にオープンした「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長として働いている。

そんな花田さんが、仕事も結婚生活もうまくいかなくなってしまった時期に、ふと登録したとある出会い系サイト。せっかく登録したのだから、とプロフィール欄に記入したのが「今のあなたにぴったりな本を一冊選んでおすすめさせていただきます」という一文。「本」を通してあらゆる人間の面白さを楽しむことができる、実録私小説だ。

ネット上で連載していたものが、回を重ねるごとに話題になり、ついには書籍化というめまぐるしい変化の日々を送る花田さんに、インタビューをお願いすることにした。

最初は面白いことだけ書こうと思っていた

ーー思わず目がいってしまうような衝撃的なタイトルだなと思うのですが、どのようにして決めたのでしょうか?

タイトルは編集者さんと二人で決めました。もっとシンプルなものでもよかったんですけど、「出会い系を使って人に本をすすめた」っていうと「ネット上でやりとりしたの? 」「今もしてるの? 」「何人くらいにすすめたの? 」と決まって質問責めされるんですよ。なので、全部内容をタイトルに詰め込んでみました。

ーー作中でも書かれていますが、活動自体をとやかく言われてしまうこともあると思います。なぜ表に出そうと決めたんですか?

あなたが貧しい想像力とテレビやネットで得た情報で考える「出会い系の危険さ」や「男の下心」は。たしかにこの世に存在はするだろう。でも私が見知らぬ人に出会って救われまくってきたこの日々が私にとっては眩しすぎて、そんな的外れな助言はまるで床に落ちてるホコリのようにどうでもいいものだった。(本文 143、144ページより引用)

自分の人生の中でもあれだけ濃い密度で過ごしたことってなかったと思うんです。だけど、やっぱりどんどん忘れていってしまいますよね。それがすごくもったいないなと思う気持ちがありました。それと、友人がWEBメディアを始めたばかりだったということもあって「じゃあ書いてみるか」と思ったんです。

最初は自分の記録とか、友人にちょっと話す…くらいの感覚で始めました。なので、まさかこんなに話題になってしまうとは思いませんでしたし、それならペンネームでやりたかったなって思います(笑)

ーーまさかWEB連載から始まり書籍化するとは思っていなかったという感じですか?

そうですね。元々は2500字で8回か10回連載の予定だったので、それくらいだったら書けるかなと思ってOKしたんです。だけど、書籍化が決まって更に7万字くらい書かなければいけなくなってしまったので、当時は「無理です、無理です」と言いながら書いていました。

ーー執筆しているときに特に苦労した部分はありますか?

最初は面白いことだけ書きたいなと思っていたんです。だけど、編集者さんから「もっと花田さんの心情が知りたいんです」と言われて気持ちをさらけ出した部分は苦しみながら書きましたね。恥ずかしい気持ちはあるんですけど、でも後から読み直して、自分でも必要な部分だったなと思いました。

ーーコーチングをされているユカリさんとのシーンは読んでいてぐっとくるものがありました。

そのシーンは特に共感してもらえることが多いですね。

「あの会社の人たちといられなくなったら、自分らしくいられる場所があるのかわからないです。仕事も、人も、それくらい自分にとっては合っていて、ヴィレッジヴァンガードというものが、自分の中でほとんどアイデンティティーみたいになってしまってて。」(中略)しゃべろうとする言葉はあるのに、しゃくりあげてしまっていて呼吸が苦しく、普通に話すのは困難だった。(本文 91ページより引用)

書かなければ終わるな、と思った

ーー執筆中はどんな環境で書いていたんですか?

少しずつ書いていたというわけではないんです。前の会社を12月の初めに辞めたあと、1月から新しく今の会社に来ることが決まっていたんですね。元々あった3万字に7万字を足すというかたちではあったのですが、20日くらいで書き上げました。

ーーかなりハードな日程ですね…。

ここで書いてしまわなければ終わるな、と思っていました。その期間は6時間書いて、3時間寝て、起きてご飯食べて、また4時間書いて、2時間寝て…ふと我に返って「お腹空いたからコンビニでも行こう」って思うんですけど、あれ、暗いけど今何時だろう、電車の音が聞こえる…ということは11時くらいかな? みたいな昼も夜もない生活をしていましたね。

ーーちょっと浮き世離れした生活だったんですね。ずっと家にこもって書いていたんですか?

家で書いていましたね。12月で寒かったので、布団を頭から被って手だけ出してひたすらキーボードを叩いていました。

ーー心にぐさぐさ刺さるメッセージ性の強さはありながらも、全体を通してすごくさらりと読めるところが、この本の魅力だと思っていたので、まさかそんな壮絶な環境で書かれていたとは思っていませんでした。

「読みやすい」という感想はよくいただきます。わたし自身が難しい本が苦手なんですよね。そういう本を読んでいるとすぐポイってしたくなっちゃう。なので、あまり複雑な書き方はしないようにしていたと思います。

あとはヴィレッジヴァンガードで働いていた当時、POPをたくさん書いたことも良い経験になっているのかもしれません。基本的にお店のPOPってお客さんみんなが読んでくれるものじゃないんですね。ぱって2秒くらい見てふーんって思ったら通り過ぎられてしまう。必ず見てもらえるわけではないし、更にそこから買ってもらわないといけない。なので「どういうことを言えば振り向いてもらえるのか」ということは10年くらい考え続けていましたし、今も無意識的に身に付いているのかなと思います。

どうしたら通り過ぎていく人の気を引けるか

ーー言葉のキャッチーさを考えるというのは、ライターを目指すわたしたちにとっても、とても大切な仕事だと思っています。どういった点を意識して作っていたんですか?

例えば「POPをつけよう」ってなったときに「面白い本でした」「中学生の野球の青春小説です」って書いてもそれは全然構わないと思います。でも、それだと満たされないというか、この本の良さを言えてないよなと思うんです。強い言葉で目を引かないと通り過ぎられてしまうので、どういう言葉だったら、自分の気持ちも満たされて通り過ぎて行く人の気を引けるのかって考え続けています。

具体的な方法としては「違う言葉を探す」っていうのは大切かなと思いますね。より具体的な言葉だとか、イメージを喚起させる言葉だったり、ちょっとその場所から浮くような言葉です。例えば「感動して涙が出ました」だと、なんの引っ掛かりもないですけど「感動して鼻水が出ました」だと、「ん? 」って思ってもらえるじゃないですか。そういう言葉をどれだけ探せるか。それがとってつけたものではなく、ちゃんと読んだ人にどう思って欲しいのかっていうところまでコントロールして書けることが大事だなと思います。

ーーヴィレバンのPOPは面白いものが多くてつい読んでしまうことが多いです。

お店なので結果が顕著にわかるのがとても面白かったです。あるPOPをつけた途端めちゃくちゃ売れるようになったり、そのPOPが剥がれちゃったり、別のPOPを使っていた店舗だと全然売れていない、とすぐにわかって検証できるんです。それは自分にとって本当によかったなと思いますね。


(現在イチオシのフェアも花田さんが書いたもの)

ーーこれからも執筆活動はされるんですか?

実話でデビューしてしまったので、これから何を書いていいのかと悩んではいます。本をすすめることは好きで、書評的なことは前からやっていたので、そういうことは続けると思います。書いていきたいという気持ちはあるので、何を書けるかなと検討中ですね。

ーーでは、物語を書くという可能性もあるんですか?

「昔のことなので細かいエピソードを思い出せない」と編集者さんに相談したいときに「最終的に花田さんが言いたいことにあっているのであれば創作でもいいんです」って言ってもらったんですね。なので、じゃあつなぎになるような架空のエピソードを…って考えたんですけど、難しくて。創作は無理だと思ったので、これからもわたしは自分の人生を切り売りをして書いていくと思います。とはいえ、こんなに濃い一年間はなかなかないと思うので難しいかもしれないですけど(笑)

明日のライターを目指す人へ

ーーこの本は何かを始めたいなって人の背中を押してくれるような一冊でもあると思うんですけど、ライターを目指していきたい人に向けて何かメッセージをいただいても良いでしょうか?

言葉にするとチープになってしまいますが、やはり行動あるのみかなと思います。本を書きたい、ライターになりたいって口で言ってるだけだと何も進まないじゃないですか。駆け出しの頃だと「なんでこんな仕事を? 」って思うこともたくさんあると思うんですけど、それって多分ずっと続くものではないですよね。だから、そういう仕事でも100本やったら見えてくるものって絶対あると思うんです。真剣に100本やった人と「こんなもの」って思いながらやった人は、多分その後の考えの深まり方が全然違ってくると思います。

ーーとにかくやり始めて手を動かすことが大切だということですね

私も最初はとりあえず100人会ってみようって思ってたんですけど、経験しているうちにどんどん思いがけない方向に進んで行ったんですよね。だから100本やってどうなるんだろうって考えるのではなく、やっていくうちに出会いもあるし、新しい気づきが出てくるかもしれません。

あとは「言ってしまう」ことも大事かもしれません。わたしの場合だと、「本を誰にでも紹介できます」って言われても、多分あんまりピンと来ないと思うんですけど「実際に紹介してました」って言い切ったからたくさんの人が見てくれたのかなって思います。

ライターなら必読のおすすめ本

ーー最後に図々しいお願いになるのですが、「明日のライター」を目指すわたしたちにおすすめの本を紹介していただいてもいいですか?

そうですね…。山田ズーニーさんの『伝わる・揺さぶる! 文章を書く』はどうでしょう。基礎になる部分は全部書いてあると思っていて、わたし自身読み込んで勉強しました。自分が何が言いたいのかっていうのをひたすら因数分解していくという作業は、文章を書くうえで大切なことなのかなと思います。


(『伝わる・揺さぶる!文章を書く』山田ズーニー(2001)PHP研究所)

あとは谷山雅計さんの『広告コピーってこう書くんだ! 読本』です。考え方や表現するということについてすごく勉強になったので、広告を作ってる人以外にもおすすめしたいです。わたしは「なんかいいよね禁止」という教えが一番好きなんですけど、つい言ってしまう「なんかいい」の「なんか」を突き詰めて考える必要性があると谷山さんが言っていて。何かを伝えたいと考えたときに、それは一体なんなのかを自分の中できちんと理解してないとダメだなと考えさせられました。


(『広告コピーってこう書くんだ!読本』谷山雅計(2007)宣伝会議)



花田さんがいろいろ人と30分という時間の中で、話し、ぴったりの本をすすめるというのは、ライター がインタビューや取材でしていることともしかしたら少しだけ似ているのかもしれない、とインタビュー中に考えた。

なぜならライターであるわたしたちもまた、限られた時間の中で、最大限その場所や人のことを知り、思いを読み取り、それをかたちとして残したいと思うからである。

花田さんは初めはサイト上で出会った人に本をすすめていたが、最終的にはサイト内の人だけではなく、実際に自分が会いたいと思っていた憧れていた人にまで会いにいくことができた。

「会いたい」と言えるちゃんとした理由さえあれば、人はもしかしたら誰にだって会いに行けることができるのかもしれない。

読み終わったあとは、すっと前を向いて歩き出せるようなそんな一冊であり、そしてそれをより感じることができる話を聞くことができたように思う。

ABOUTこの記事をかいた人

佐倉ひとみ

東京都生まれ。フリーライター。小さい頃から図書館通いを欠かさない活字中毒者です。すきなものは、児童書と旅とたまご料理とやさしいことば。