ライターは「巨人の肩にのれ」と田中泰延は言う

広告、Web、編集などの視点で「書く」を学ぶ明日のライターゼミ、今回も2018・秋の講師である田中泰延さんに、そこんとこインタビューしました。

ライターの自己紹介とは?

西島:本日は、よろしくお願いします。いきなり突拍子もない質問で恐縮ですが、田中さんはなぜ、明日のライターゼミにご登壇されることを決意されたのですか?

田中:あんたに頼まれたからや。このくだりまだやんの?

西島:一部で楽しみにしている方もいらっしゃるみたいで。

田中:おらんやろ、そんなん。

西島:では改めて、ズバリお伺いします。ライターという職業を一言で言うと?

田中:地球を守る仕事です。

西島:なるほど。24時間365日、気持ちの悪い怪人とショッカー相手に、重いバイクと重い衣装で駆けずり回る、人権も何もあったものじゃない、ザ ・ブラックサラリーマン、ザ ・悪の、って仮面ライダーの話してます?

田中:ライター、ハイターと来てライダー、そろそろネタが尽きてきそうです。

西島:恐れ入りますが、早く尽きて頂けますか?

田中:もうちょい。


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西島:では気を取り直して。2018年5月13日(日)に行われた第2期の講義について質問させて下さい。

田中:その前に確認なんですが。

西島:ありません。

田中:了解です。

西島:2期の講義テーマは「自分を売るためのグループワーク」ということで、自分を売ることの意義、自分のいいところの見つけかた、見つけてもらいかた、それを言葉にすることについて、ご講義頂きました。

田中:はい。ただ「自分を売る」なんて言っていますが「何かを書いてください」と言われたとき、書くことを仕事にしている人は、すでに不利なんです。たとえば宇多田ヒカルは「はじめまして、宇多田ヒカルです。私は歌を歌っています」なんて言う必要がない。そして、宇多田ヒカルがカツ丼のことを書こうが、サイゼリヤのことを書こうが、人は読んでくれるんです。

西島:田中さんがいつも言っている「誰が書くか」ということですね。

田中:究極の自己紹介は自己紹介しないことです。ウィキペディアを見てその人のことが書いてあれば、自己紹介の必要がない。

西島:自己紹介する必要がある人は、どうしましょう?

田中:そうでないとすると。いい自己紹介とは、自分が今何をしているか、簡潔に伝えることです。若い人で「ライターになりたいんです。でも今、何もしていません」という人、結構いるじゃないですか。

西島:はい。

田中:そんな人の文章を誰が読みたいねん、と思います。だから、明日ゼミの受講生にいらっしゃる精神科医の先生とか、耳鼻科医の先生とか。本業が別にあって、何かお題が与えられたとき、その人の視点でモノが書ける。それが魅力だと思うんです。

西島:以前の対談で仰っていた『田中さんはガソリンスタンドとかコンビニで働きながら書いた方がいいよ』というやつですね。

田中:そうそう。

西島:何かをしている人だとして。こんな自己紹介は良くない、というのは?

田中:自分がやりたいことを言う人です。「誰々です。こういうのが書きたいです」みたいな。いやいや、そのお題まだ出てないし、お前が書きたいことは好きに書いて歩道橋の上で売ったらどうかな、50円くらいで、っていう。note自体はいいプラットフォームですが、noteに出ているコンテンツで時々そういうのありますよね。いや、それにお金払う意味ある? っていう。

西島:私はそうは思いませんが。

田中:ハシゴ外さんといて。

西島:逆に、お金を払ってでも読む価値のあるものって、どんなものですか?

田中:具体的なノウハウが書いてあるやつでしょうね。「私は転職して、仕事を変えたけど、月々いくら稼いでいるこのやり方を具体的に教えます」とか。僕個人はそういうのはあんまり好きじゃないけど、まだマシですよね、情報があると言う意味においては。

西島:なるほど、私はそうは思いませんが。

田中:ハシゴ外さんといてハシゴ外さんといて。


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ライターは「それ私、できます」と言えるか

西島:話は変わるんですが、先日明日のライターゼミ2018・秋 の講師発表時にこんなツイートをされてました。

西島:もう少し詳しくお聞かせ頂けませんか?

田中:成功する人って、大体強引じゃないですか。これはすごく言いたいんですけど、「書くことはたった一人のベンチャー起業」だということです。ライターになりたい人は、もっと起業家の話を聞いたほうがいいです。起業家って、成功した人でも、10個目の商売でやっと成功したとか、成功するまで9つ飲食店をつぶしたとか、化粧品を売ってみたけどまったく売れなかったとかあって、今の商売が当たったという人が意外と多いんです。ライターも同じように、ほぼ駄目なことだらけだから。

西島:絶対に雨を降らせる雨乞い師は、雨が降るまで雨乞いをやめない、みたいなことですか。でも、確かにやめない強さってありますよね。

田中:たとえば何かを書いて、1個ウケたから、そのシリーズを永久に続ければ、60歳まで月収20万あるとか、そんなことは絶対にないんです。絶対になくて「そんなことやらなあかんの?」みたいなことを、とりあえず受けてやったら、それが次の仕事につながる。大切なことは、「こういうことをやれる?」と言われた時に「あ、それは得意です」と言い切ることなんです。

西島:なるほど。でも、できないことをできると言い切るって、期日までにできるようになっていることが条件になりますよね? でないと本業がなくなるくらい信用を失う可能性だってある。

田中:あれがそもそもそうでしょう、ビル・ゲイツ。「お前たちのコンピュータって必要? IBMがあるからいいんじゃないの?」と言われて「IBMなんか、時代遅れ。あんな巨大なコンピュータ。私たちのものは、このフロッピーディスク何枚かで、どのコンピュータでも同じように動かすことができます。私たちは、これを“ディスク・オペレーション・システム”、略して“DOS”と呼んでいます」とまで言い切って、実際は、何にもできてなかった(笑)。でも、それを聞いて「わかった。それはすごい」と金を出してもらえたから、あの瞬間にマイクロソフトが出来たんです。帰って、めっちゃ必死でやったと思いますよ(笑)。

西島:度胸がすごいですよね。ビビリは「いえ、できないです。できないです」ってなりますもん。

田中:あと、できるって宣言して、人に助けてもらうというのもあります。

西島:田中さんは、会ったことない人も「あーその人、仲良しです」って言い切って仕事にしてましたもんね。

田中:かっぴーとさえり(笑)。会ったこともないのにクライアントに「あいつら、もう、俺の手下というか、子分みたいなもんです。何でも言うことを聞きますよ」って言いました。でも、面識すらなかったですから。次の日、会いに行きましたから。デニーズで待ってもらって「すいません。とんでもないうそを言ってしまったんです。お願いです、助けてください」って。

西島:(笑)

田中:ライターとか、絵を描く人とか、クリエイティブな能力がある人にものを頼むときって、「助けてください」が一番いいです。やってくれる。


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「2018・秋」の映画評課題について

西島:明日のライターゼミも3期目に突入です。

田中:2018・秋の講師も、いろいろ多彩ですね。いいんでしょうか。僕だけ、こんな古い感じの人が居座って。

西島:田中さんはライターでいえば時代の先端ですよ。青年失業家ですから。

田中:そういえば、次にご登壇される谷山雅計さんが面白くて。宣伝会議賞の授賞式、2017年のとき、知り合いから、「泰延、お前の書いたコピー、谷山さんが今年一番気になったコピーって。今画面に映し出されてるで」といって、デカいスクリーンに、「青年失業家」と。いやいや、それ、コピーでもないし、応募もしてないからっていう(笑)。

西島:(笑)。でもコピーですよね、ある意味。そんな青年失業家、田中さんの3期の講義課題は、映画評ですよね。

田中:そうです。私の2018年のベストの1本である「スリー・ビルボード」を観て映画評を書いてもらおうと思います。

西島:受講生が課題に取り組む際のヒントになればと思うのですが、田中さんが映画評を書くとき、心がけていることは何ですか?

田中:やっぱり「調べること」ですね。批評には、いろいろなやり方があって。筒井康隆さんの『文学部唯野教授)』という本を読んでもらえればわかるんですが、例えば、文学でも、映画でも、批評をするとき、まず印象批評がありますよね。自分はこう感じたとか、ここに感動したとか。それは、もう、第一歩に過ぎないんです。印象批評の次に記号論、構造主義、そしてポスト構造主義。難しく考える必要はないのですが、映画批評と簡単に言っても奥が深いんです。「私はここが面白かったです」「ここはつまらなかったです」と言うことだけでは全然批評にならないということを、実践的に学んで欲しいと思っています。


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西島:今回の課題も4,000字以上必須ですか?

田中:もちろんです。ここは面白かったとか、ここはエモかった、みたいなことを書いても、到底4,000字にはいかない。あらすじをひたすら細かく紹介したら4,000字になるかもしれないけど、それを誰が読みたいかという。映画には必ず下敷きがありますよね。下敷きになったものとどう関連しているか、どう発展させているかというのを、ちゃんと調べて指し示すと、読んでいる人は「ああ、なるほど」となる。これは常識ですが、物語の構造には、もう、めちゃくちゃ類型があって、神話とか聖書とかシェイクスピアに、物語の基本的構造はほとんどあるので。ここで人が裏切られて、ショックを受ける構造とか、もう出し尽くされているんです。それを、フレッシュに見せているのが、今ある表現。

西島:常に過去という存在がベースになっているということですかね。

田中:これはベルナールというフランスの哲学者が言っていたことですが「巨人の肩に乗る」というのが大事です。つまり、今までの人間がやってきたことの積み重ねが、巨人みたいなものだから、その肩の上に乗って、物事を見回さない限り、今更、地面に立って、あれは面白いとか、すごい映画だとか言っても、それは子供の喜びかたであって、読んで面白いかというと、面白くない。しかも、この「巨人の肩に乗る」という言葉も、ニュートンの言葉と一般に思われているし、書いてあったりするんですけど、ちょっと調べると、ニュートンはベルナールの言葉を引用したんだとわかる。

西島:調べること。そして「知っていること」の重要性ですね。

田中:若いライターって、よく恋愛のことを書くじゃないですか。交際してみたらこうとか、同棲してみたらこう思ったとか、結婚してみたらこう思ったとか、別れてみたらこう思ったとか。それ、夏目漱石がほとんどやっていますから、百何十年も前に。夏目漱石は江戸時代、封建制度だった日本に突如、海外から、個人思想とか、自由恋愛とか、「個人の権利と憲法の中で自由に生きる」という概念が入ってきて、それぞれが、私って何か、恋愛って何か、ということを考えざるを得なくなって、明治の何十年かで考えたことを、めっちゃ文字にしてるんです。すごくフレッシュな、大学に入りたての『三四郎』から、最後、もう人が信じられなくなって、人を試す『それから』とか『こころ』に至るまで、書きまくっているんです。若いライターの人は、百何十年前の漱石を読んだら、全部書いてんねんから、この先を書かないとヤバイよなと思わないといけないのに、パクツイと同じようなことをやってしまっている。

西島:それが、映画評にも言えることだと?

田中:映画だったら、なぜエモかったかというのを、脚本、役者の演技、音楽、カメラワーク、編集などの要素を一個ずつ分解していって、さらに、巨人の肩の視点で、小津安二郎が70年前に同じことをやっていたよとか、このカメラアングルは誰々という監督にすごく似ているから、その監督のこの感じを入れたかったんだななどと、推察していく。で、縮小再生産ではなく、拡大再生産を、この監督によって、2018年にしているんだという論が作れれば面白い文章になります。

田中泰延さんのこれから

西島:田中さん、会社辞めてからそろそろ2年ですか?

田中:1年8カ月。

西島:どうですか? 2年経って。

田中:2017年は、言われたことを全部やっていたんです。だから、むちゃくちゃ量はあったし、今見ても、こんなに書いてたんというくらい。1日も休んでないです、2017年。ただ、追い詰めたらこれくらい書けるというのがわかったと同時に、サラリーマン時代と同じように「はい、わかりました。何日までに」というのをやってると、それで一生が終わるということがわかりました。それは良くないなと。2018年は、自分が何をしたいかをよく考えて、けっこう身体も休めています。

西島:出版社を作られるみたいな話はどうなったんですか?

田中:一人出版社ですね。もうすぐ登記しますけど、今約款を作ったり、お金を用意したり、事務所はどうしようか、どこにしようか、ということを考えています。

西島:書く仕事が減ってしまって、お金は大丈夫なんですか?

田中:お金、ない(笑)。


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田中:書くというのは、前も言っているけど、基本、儲からない。書くのは、生きかただと思っているので、自分が電通にいたときに、電通の年収をもらって、西島さんに「片手間に書きませんか」と言われたのが良かったんです。「俺はライターなんだ」っていい気になって辞めたわけでもなんでもなく、それは辞めたくて辞めたので。一応生活ができるレベルの収入が得られるような仕事を探して、また好きに書きたい。

西島:書くのは、生きかた。最後にいい言葉を頂きました。

田中:ほんまに思ってる?

西島:今日は楽しい話をありがとうございました。最後に一つだけ、書くのが生きかただという泰延さんが、明日のライターゼミにご登壇されようと思われたのは、一体どうしてなんですか?

田中:あんたに頼まれたからや。

西島:講義楽しみにしてます。

田中:こちらこそ、素晴らしい映画評に出会えることを楽しみにしています。

田中さんから「書く」を学べる「明日のライターゼミ2018・秋生」。ご興味ある方は下記募集ページからご応募ください。