「ライターは自分がやらないことを決めろ」とトイアンナは言う

各方面で活躍中のライターと編集者から、広告、Web、紙のライティングと編集を学べる「明日のライターゼミ」。講師の一人でもあるトイアンナさんに、ぐりぐりインタビューしました。

マーケティング、ブランディング目線でライターとメディアを捉える

西島
本日は宜しくお願い致します。

 

トイアンナ
こちらこそ。

 

早速ですが、トイアンナさんの年収はいくらですか?

 

言うわけねーだろ。

 

 

失礼しました。では、お決まりの質問で恐縮ですが、トイアンナさんはなぜ「明日のライターゼミ」に登壇しようと思われたんですか?

 

日本のジェンダー格差をなくしたいからです。

 

 

はぅ?

 

 

そこには二つの意味合いが含まれていて、一つは女性の地位向上、もう一つは男性の男らしさの強制からの解放です。女性の地位向上の前に立ちはだかる問題の一つが、年収が低いということ。会社員として年収が低い女性はフリーランスや副業で稼いだ方が現実的なことが多いですよね。そうなった時に、ライターというのは一つの解決策だと思っています。明日のライターゼミも自由な働き方、例えば「子どもを産んだからキャリアを諦める? そうではないだろう」という答えの一つとしてご提供できればと思い、お受けしました。

 

ちゃ、ちゃんとした理由ですね。すいません。「あんたに頼まれたからや」と言って欲しかっただけなのですが。

 

次の質問です。先日1期の講義が終わりましたが、「明日のライターゼミ」の受講生と接してみて、何か感じたことはありますか?

 

個人の意欲が非常に高かったですね。普通、ライター講座って「よくわからないけど有名になりたい」みたいな怪しい人が来て、全体のレベルが下がって、講義そのものに力を入れられないというトラブルが起きたりするのですが、明日のライターゼミに参加された方々は、みなさん能力が高かったので充実した講義にすることができました。チームワークも良かった。自主的に勉強会を開かれたり、メンバー同士でお互いに刺激し合って、さらに成長していこうという意欲と活気が溢れていて素晴らしいと思いました。

 

講義後に取ったアンケートの感想に多かったのが「トイアンナさんの講義はブランディング目線でライターについてお話しされていて非常に参考になった。あまり他では聞いたことがなかった」という声です。

 

ライターはブランディングをしろ。つまり、確固たる、自分がやること、やらないことを決めろというのが私の持論です。そこがブレてしまうと、何でも書くライターになってしまうので。

 

そうすると「何かを書いてください」とメディアから依頼が来ても「自分が書くべきではない」と断ることもあるのでしょうか?

 

そんなわがままに「絶対私はこれを書きません」とはやらないですが「御社で書かせて頂くとしたら、これ位限定的なコンテンツになります」というお話はします。

 

その際「この企画だと、あのメディアと見分けがつかなくなる」など、メディアごとの書き分けを意識した提案をすることもあるのでしょうか?

 

それはありますね。同じテーマを扱うにしても、媒体ごとにチューニングアップはしていかないと金太郎飴にみたいになって、差別化ができない。つまり媒体に対して害があると思っています。

 

媒体ごとのチューニングなど意識せず、ギャラが良かったら書いちゃうという人は、結構多いと思いますよ。

 

そら、一本一億円と言われたら私も書きますよ。その代わりその場でリタイアしますけど(笑)

 

ライターと企画について

ライターとして、企画に関してはどう考えていますか? ライターが企画のフレームから作るのか、という意味で。

 

私は編集者としてもお仕事を承ることが多いので、あえて申し上げますと、媒体のカラーリングを頑張るのは編集側の仕事だよなとは思います。有名なライターが記事を書かれて、結果、なんの媒体かわからないけど「この記事は面白かった」という感想しか引き出せないなら、それは媒体の企画力不足ということだと思います。

 

人によっては、決まった企画はやりたくない。企画から考えたいという人もいますよね?

 

やれと言われればやってもいいですが、ターゲットのニーズに合わせて企画を作れというなら別でお金をくれ、と思います。企画を与えて頂いて「うちの媒体のターゲットはこんなものです、それだけ意識して書いてね」というのと、「何か面白いものを作って。KPIはこれです、うちの媒体のことはいっぱい考えて書いてね」というのは違うし、それって代理店のお仕事じゃないですか、と。

 

完全にテキストコンテンツの仕事をレイヤーで切り分けているんですね。

 

誤解を恐れずに言うと、そこは意思ではなくて、オプションの値段差でしかないという考えです。

 

 

面白いですね。今回は「書く」というフェーズでお金をもらってだけだと。戦略とか企画からやるんだったら、そっちのフェーズの作業料も下さいと。

 

逆に強い企画をご準備頂いている場合は、通常のライティングフィーより値下げすることもありますよ。

 

やりやすい編集者

トイアンナさん的に、やりやすい編集者の条件みたいなのはありますか? 強い企画が立てられるということの他に。

 

しれっと直してくれる人がいいです(笑)「これ修正原稿です。これで良ければ掲載しますのでよろしく」と戻しを頂ける人ですね。一番イラッとするのは「これ誤字なので直しておいて下さい」とコメント欄に入っているようなやつ。もうその文字数であなた直せるじゃないですか、みたいな(笑)。コメント欄を駆使して校正される方には「作家の作品だから、下手に編集者が触るものではない」というポリシーがあるんでしょうね。だからたとえ些細な誤字でもコメントでお願いすべきだというのがあるんでしょう。自分の誤字を改めてまじまじ見させられるのは恥ずかしいですし、よっぽど加筆訂正がない場合は、しれっと直してよと心の奥で願っています。

 

いいライター

トイアンナさんは編集サイドの目線もあると思いますが、編集者としていいライターの条件などあれば教えて頂けますか?

 

 

失踪しないこと(笑)

 

 

もうちょっとレベル上げてもらっていいですか。

 

納品できないときに早めに「納品できない」と悲鳴を上げてくれることですかね。

 

 

スケジュール問題ですね(笑)

 

 

原稿が遅れると困るという話もあるのですが、「明日のライター」という観点で申し上げますと、ホウレンソウができるかどうかって、メディアに露出できるか、さらに言うならテレビとか、マルチで活躍できるかという意味で必須のスキルになってきますよね。たかがメール一本でクライアントさんを激怒させてしまうケースって非常に多くて、メールがちゃんと送れないという理由で、名文が世に生まれないのだとしたらもったいなすぎると思っています。

 

構成がちゃんとしているとか、タイトルの書き方がわかっているとか、一行がもの凄くうまいとか、そういう面で言うと何かありますか?

 

素人とライターを分ける分岐点になっていると思うのですが、一つの論旨について、最初から最後まで数千字を書ける人って意外と少ないです。例えば個人のブログって、例えば私が今日BASEさんにお邪魔したという記事を書くとして「いやー、なんか気付けば春も来たかと思ったら、木枯らしが吹いてきて、今日はすごい寒い日だったな」みたいな天気の話から入って「ああ、そうそう。今日は株式会社BASEに来る日でした!」みたいな感じになり「そういえば社長の西島さんってイケメンで、田中泰延さんともつながりがあって、超有名人なんだよ! 実はカツセさんとも飲んだことあるんだって! ちなみに私そこにいたけどね」みたいな感じでダラダラ書いてBASEさんの話は500文字くらいになるんですよね。

 

そんな文章見た気がしますね。

 

 

ライターさんと呼ばれたいのであれば「本日はBASEに行ってきました。BASEはこういう沿革のこういう会社で、街角のクリエイティブという媒体を運営している。社長は西島さんで、西島さんの経歴はこう。BASEのオフィスはこんな様子です」みたいに端的にまとめられるわけです。ちょっと簡単に説明しましたが、まとめるべきポイントを過不足なく決められた文字数で書けるライターが最低限良いライターなのだと思います。

 

読者は情緒的価値に重きをおいて読んでいる

先日の講義の中で「読者は機能的価値ではなく、情緒的価値に重きを置いて記事を読んでいる」という話があったと思うのですが、その辺をもう少し詳しくお聞かせ頂けますか?

 

そもそも人は常に情緒的な価値を求めているので、記事を書く時もまず情緒的価値を持ってくるべきです。その上で「なぜか」というのを人は聞きたいんです。例えば確定申告を一日で終えられるクラウドウェアがあったとして「確定申告で悩む日々よ、さようなら」というのが情緒的価値ですよね? 読者にはそこが刺さるわけです。その後、読者が「なぜ?」と思ったところで機能を説明すればいいんです。

 

なるほど。一つの記事の中で徹頭徹尾、情緒的価値で押し切るという話ではなくて、ということですね。でも日本の企業って機能的価値を、とにかく大事にする傾向ありませんか?

 

記事に置き換えてもそうなのですが「その記事の価値について考えたことがある?」と。「あなたの文章のベネフィットって何?」を考えることが必要で、その上で「あなたの文章を読んで人はどんな情緒的価値を得るの?」という視点がないと「世界遺産まとめ150選」みたいな記事だけを作ってしまう人になってしまいます。そんな人を同じ「ライター」と呼ばないで下さい、という気持ちになりますよね。もちろんNAVERまとめみたいな「機能的価値です。終わり」みたいな記事もありといえばありですけど、それなら極めて希少性の高いものをまとめられるスキルを持っていないと。

 

「世界の裸族20選」みたいな。

 

 

ちょっと知りたいですよね。しかも現地に行って調べられたら、もう勝てないですよね。機能的価値を与えるんだったら、その分野に関して、すさまじい専門性を持っていることが必要になるということだけを知っておいて頂ければと思います。

 

トイアンナの今後

「トイアンナ」として、今後どのように動いていきたいという希望はありますか?

 

ライターの育成にもフォーカスしていきたいですね。女性が男性と同じくらい好きなキャリアを選んでいくためには、フリーランス業の育成は不可欠であると思っていますし、ライターという選択肢はおすすめです。私が営業に回って、ライティングを教えたライターを書けるようにするという所にも携わっていきたいです。

 

なるほど。少し質問が変わりますが、ライターの仕事で近頃変化を感じることはありますか?

 

「Twitterの140字を書いて下さい」みたいな短文の発注が増えてきている印象はあります。広告のプロモーションを打ちます、そこにリード文を140文字以内で打たなければいけない。これをきちんと考えて作って欲しいというような仕事ですね。ここで注目すべきは、その仕事ってもうWeb媒体ですらないということです。今後はそういった仕事が増えて行くと思います。

 

Twitter用の140字の執筆か。確かに最近企業が媒体コストをかけずに自社のアカウント上でプロモーションをやるケースが目立ちますよね。でも、ライターの立場に立って、そういった仕事で食べていけますかね?

 

 

140文字の価値が10万円になったりするんじゃないですか。売れっ子のこの人の書いたリード文だとすごく売れるとなったら、そこに10万、100万の価値がつくと思いますよ。

 

そうすると、コピーライターが持っているような「言葉を凝縮させる力」がまた必要になってくるんですかね?

 

はい。すでに現象として、人間がスクロールをするのが面倒くさいというトレンドが生まれています。パッと見たときにモーメントで何か映像を見られるとか、あとは横スライドでチャチャッと見られるとか、そういったものが今後ますます好まれていくと思います。

 

スクロールしなくていいものとなると、音声や動画。ライターでも「しゃべれる人」が重宝されていったりするんですかね?

 

私は音声や動画も飽きられていくと思っていて。なぜなら、音声や動画は聞くための時間を取られるからです。なので四角のマスの中に珠玉のおもしろい一言を載せられる人が生き残っていくものと思っています。

 

最後になるのですが、第2期の講義テーマである「SNSでシェアされる文章のつくり方」について、伝えたいポイントなどあればお聞かせ頂けますか?

 

素晴らしい名文だけどタイトルがイケてないから読まれない、というものがこの世には大量にあります。タイトルで、我々の文章は読んでもらえるかが決まります。私はコピーライターではないのでクリエイティブな視点では教えられませんが、マーケター的に助言は与えられるので、得た技術に関しては、最大限お届けできればと思っています。特に第1期は、インサイトを考えようとか、ブランディングをしようとか、ライター自身の個性の方に特化したので、より、書くとはどういうことか。技術的な面も含めてご提供できればなと思っています。

 

ありがとうございました。最後になりましたがトイアンナさんの年収はいくらですか?

 

だから言わねーよ。

 

 

編集後記

トイアンナさんは今まで会ったことのないライターだ。マーケッター、ブランドマネージャーとしての経験を生かし「ライタートイアンナ」を一つのブランドと捉え、第三者的な判断でブランディングを続けていく。そして「やりたい」とか「好き」という主観的な感情で仕事を受けたり、モノを書いたりはしない。でも、だからこそ局面局面で冷静な判断ができ、目的、目標を達成できるテキストコンテンツを量産していけるのだろうと思う。

トイアンナさんも登壇する明日のライターゼミ、3期が募集中です。詳細はDMMの募集ページをご覧下さい。

ABOUTこの記事をかいた人

西島知宏

明日のライター編集長。電通を経てBASE設立。胸になんか刺さったというブログを泣きながら書いています。著書『思考のスイッチ 〜人生を切り替える11の公式〜』を本屋の一番目立つ所に移動させるのが得意です。